仙台地方裁判所 昭和29年(ヨ)37号 決定 1954年4月07日
申請人(十二名選定当事者) 中沢貞治
被申請人 日本電信電話公社
主文
本件仮処分申請を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
理由
申請代理人は「本案判決確定に至る迄、被申請人は申請人に対し金六千百三十八円を仮に支払うべし」との裁判を求め、その申請の理由として、申請人は昭和二十年十月十八日、選定者伊賀昭一は昭和二十一年三月三十一日、同田中保富は昭和二十年四月一日、同明石清及び同今村富雄は昭和二十三年二月二十六日、同広居正彦は昭和二十三年五月二十四日、同三浦英司は昭和十七年六月十六日何れも技術職員として、選定者大槻ひさよは昭和十九年十月二十八日、同市川ふく江は昭和二十五年六月十五日、同永沢栄子は昭和二十三年十二月十三日、同志賀栄太郎は昭和十六年十月二十五日、同馬上慧子は昭和二十三年九月二十九日、同鈴木武則は昭和二十五年四月一日何れも職員として、被申請人に雇傭され、以来被申請人の地方機関である東北電気通信局の業務に従事してきたのであるが、申請人及び選定者等は何れも日本電信電話公社職員就業規則により夫々所定の日数の年次有給休暇を与えられ、昭和二十八年十二月一日現在、申請人及び選定者伊賀昭一、同明石清は各三十七日、同田中保富は三十三日、同広居正彦及び同志賀栄太郎は各三十一日、同馬上慧子は二十七日、同今村富雄は二十五日、同永沢栄子は二十四日、同市川ふく江は二十一日、同三浦英司は十九日、同鈴木武則は十八日、大槻ひさよは七日の年次有給休暇請求権を有していたので、選定者今村富雄、同大槻ひさよ、同鈴木武則、同志賀栄太郎及び同三浦英司は何れも、昭和二十八年十一月三十日葉書で翌十二月一日の年次有給休暇を、同馬上慧子は同年十一月三十日、被申請人の仙台無線通信部庶務課会計主任代理佐藤一に対し口頭で翌十二月一日の年次有給休暇を、申請人及び選定者市川ふく江、同広江正彦は何れも同年十二月一日葉書で翌十二月二日の年次有給休暇を、選定者伊賀昭一、同田中保富及び同明石清は何れも同年十二月二日葉書で翌十二月三日の年次有給休暇を、同永沢栄子は同年十二月二日、被申請人の仙台無線通信部庶務主任千葉義行に対し口頭で翌十二月三日の年次有給休暇を請求し、何れもその請求の日に休暇をとつた。しかるに被申請人は申請人及び選定者等に対し右請求の年次有給休暇を与えず、之を欠勤として取扱い、昭和二十九年一月二十三日申請人及び選定者等に支給すべき賃金中より申請人及び選定者三浦英司の分は各金六百二十六円、選定者田中保富の分は金五百六十九円、同志賀栄太郎の分は金五百三十一円、同伊賀昭一、同明石清、同今村富雄、同広居正彦及び同大槻ひさよの分は各金四百九十三円、同鈴木武則の分は金四百七円、同馬上慧子の分は金三百七十九円、同市川ふく江の分は金三百六十五円、同永沢栄子の分は金百七十円を夫々差引き支給した。けれども申請人及び選定者等は何れも前記のように年次有給休暇の請求をして休暇をとつたのである。被申請人の就業規則第三十七条には「同規則第三十一条の休暇(年次休暇を含む)を受けようとするときは所属長の承認を得なければならない」と規定しているが、右承認をうることは休暇の前たることを要求しているものではなく、年次休暇の請求権あるものについて従来の取扱方法は休暇の前後に拘らず電話、伝言、葉書等適宜の方法で届出をなし、それが一応年次休暇の請求と認められた場合は必らずその取扱を為していた。しかも前記請求の日に休暇をとつても、被申請人の業務に何等の支障がなかつたのであるから、被申請人は申請人及び選定者等の右休暇を年次有給休暇として取扱い、その賃金を支払うべきである。よつて申請人及び選定者等は被申請人に対し、賃金未払分請求訴訟を提起したのであるが、申請人及び選定者等は何れも賃金を得ることによつて辛うじて生計を維持している勤労生活者であつて、本案訴訟の確定を待つていては著しい損害を蒙るので、仮に申請人及び選定者等の受くべき前記金額の支払を求める為本件申請に及んだ次第であると述べた。
しかしながら、仮に申請人及び選定者等がその主張の賃金支払請求権を有するとしても、申請人提出の疎明資料によれば、申請人及び選定者等がその主張の金額を支給されなかつたことによつて生じた生活上の負担は、或は生計費を節約し、或は他より借入れて既に之を補填してきたとの疎明があり、他には申請人及び選定者等に今直ちに本案訴訟において勝訴した場合と同様の保護を、与えなければならない程緊急の必要があることを認めるに足る疎明はないから、本件仮処分はその必要性を欠くものといわなければならない。
よつて申請人の本件申請を却下し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り決定する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 伊藤和男)